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2017

第193国会 参議院 本会議 2017年6月14日


○議長(伊達忠一君) 福山哲郎君。
〔福山哲郎君登壇、拍手〕
○福山哲郎君 民進党・新緑風会の福山哲郎です。
会派を代表して、ただいま議題となりました金田勝年法務大臣を問責する決議案に賛成の討論をさせていただきます。
まず、与党の諸君に申し上げます。国会の議論は時間を制限する、文書は捨てる、出さない、数々の虚偽答弁。挙げ句の果ては、法務委員会を開会せず、僅か十七時間五十分で審議を打ち切り、この本会議で強行採決をしようというのでしょうか。国民の皆さん、中間報告などというきれいな言葉でごまかされないでください。中間報告とは、数の力による審議打切りの強行採決です。与党の究極の審議拒否です。
私も二十年間参議院に籍を置きますが、こんなことは初めてです。前代未聞であり、考えられない暴挙です。安倍政権による議会制民主主義の否定そのものです。断固として許すことはできません。我が国の民主主義の歴史に禍根を残す一日となりました。政府・与党に恥を知れと強く申し上げたいと思います。
まず、先週の金曜日、文科大臣が加計学園に関する省内の文書の再調査を言い出しました。確認できない、再調査の必要なしと強弁していたものが一変しました。週末、土日の前の時間稼ぎにほかなりません。最初の調査は僅か一日で確認できなかったと発表しました。今回の再調査は、当該文書は存在するに決まっているわけですから、例の同姓同名の文科省の官僚諸君にヒアリングし、メールを確認すれば、文書の存否と真偽なら半日もあれば十分と思われます。
ところが、既に四日が経過しました。案の定、文科省は、速やかに調査結果を出したいの一点張り。昨日も今日も、いつ出すのか分からないような状態が続いています。挙げ句の果てには、昨日、自民党の竹下国会対策委員長が、会期後でもいいと思っていると、信じられないような発言をされています。なぜこんなに時間が掛かっているのでしょうか。たとえ数の力があろうとも、こんなことが通用するはずがありません。
結局、今回の再調査の発表は、国民の声に応えたのではなく、逆に、国会会期末を迎え、時間稼ぎをし、国民を欺く極めて不誠実なやり方と言わざるを得ません。今すぐ存否と真偽を明らかにするべきです。他人事のように、調査の必要はないなどと述べている内閣府にも強く抗議します。
政府・与党は、よもや、このまま再調査の結果も出さず、予算委員会の開会も前川文科省前次官の証人喚問も実現しないまま、国会を閉じるようなことはないと信じたいところですが、そんなことは断じて認められないということを申し上げます。
前川前次官の証言によれば、和泉総理補佐官に呼ばれて、補佐官の口から、これは総理が自分の口から言えないから、私が代わって言うんだということです。まさに、そんたくそのものではありませんか。安倍総理に加え、前川前次官、そして和泉総理補佐官を参考人としてお呼びして、予算委員会の集中審議を強く求めます。
四月以来求め続けているのに、一向に予算委員会は開かれず、逃げ回るばかりです。審議拒否をやり続けているのは安倍内閣そのものと断じざるを得ません。身の潔白を証明したいのなら、堂々と予算委員会に出てきて国民の前で説明するべきです。誰からも突っ込まれないラジオや新聞に出て、好きなことを言うのはやめていただきたい。
よく考えてみてください。森友学園に事務官を連れて何度も訪れ、籠池夫妻と何度も連絡を取り合い、お手伝いしたいと講演会で話していたのは、安倍総理の夫人である昭恵さんです。総理の意向と官僚に言わせ、究極のそんたくを重ねたのは、安倍総理の腹心の友、加計学園の理事長の獣医学部の設置のためでした。行政がゆがめられてはいけないと、勇気を持って文書の存在を認め、総理の意向があったと証言した前川前事務次官、この人を事務次官に任命したのも安倍総理自身です。
今国会の混乱は全て安倍総理が関わっています。何を強弁しようが、国民はもう分かっています。行政をゆがめ、私物化した安倍総理には、どうぞ潔くお辞めくださいとお伝えしたいと思います。
続きまして、金田法務大臣の問責について申し上げます。
この場で金田大臣の問責決議案に賛成討論をすることを大変残念に思います。大臣が参議院議員でいらしたとき、共通の知人が京都にいることもあり、その知人宅で食事を共にしたこともありました。気さくに声を掛けていただいたことを覚えています。
大蔵省出身のあなたが、御病気のことがあったとはいえ、官僚である刑事局長に答弁を委ねなければならないことに内心じくじたる思いもあったのではないでしょうか。しかしながら、そのことが、過去三回国会で廃案に追い込まれ、明治以来の我が国の刑法体系を揺るがし、国民の内心の自由を侵しかねない共謀罪の所管大臣としてのあなたの責任を免れることには残念ながらなりません。
今年の通常国会冒頭、一月三十日の本院予算委員会の審議において、既にあなたの答弁能力には大きな疑問符が付きました。法務省が示した事例について、あなたは自ら、裁判例を見ますと、と答弁されたにもかかわらず、私の具体的な判例はという問いに対して、判例としてどれを指すかと言われますと、私の方からただいま申し上げることはできませんがと言われました。それがすぐに、直接の判例はありませんに変わり、最後は、判例的な考え方を申し上げていると、同じ委員会中に三度も答弁が変わりました。以後、成案ができるまで検討中と答弁を避けることが目立つようになりました。
その頃、政府は、今回の共謀罪は以前の共謀罪とは全く別物であること、新しい共謀罪は一般の方々は対象にならないこと、テロ等準備罪という呼称を使い始めるなど、国民をごまかすための印象操作を展開し始めていました。しかしながら、以前の共謀罪と別物とはどういうことであるのか、さらに、一般人が対象にならないことの法的根拠を幾ら質問しても、金田大臣からは十分な答弁が得られなかったことは言うまでもありません。残念ながら、国会終盤の今に至るまで同じやり取りが続いています。
こうしたさなか、二月六日、大臣の指示で、メディアに向けて驚くべき文書が配付されました。その文書には、刑事局長や外務大臣と議論するべき、予算委員会ではなく法案提出後に法務委員会で議論をしてほしいと記されていました。行政府の一員である法務大臣が立法府における審議の在り方について注文を付ける、そしてそれをメディアに配付する、その異様な感覚に、立法府への言論弾圧、マスコミ操作と抗議の声が上がりました。
法務官僚の諸君は、こんな文書を出せば大騒ぎになると分かっていたはずです。にもかかわらず、なぜ止めなかったのでしょうか。法務官僚の諸君も、その時点でもう金田大臣にお引き取りいただきたかったと考えていたと推察せざるを得ません。
さらには二月八日、ただいまの御意見に対しましては、私の頭脳というんでしょうか、ちょっと対応できなくて申し訳ありません、是非事前に御通告をいただくと有り難い、立派な答弁を直ちにできるかなというトライをしてみたいなどという大臣の意味不明の珍答弁が次々と飛び出し、辞任論が噴き上がりました。私はこの時点で大臣は辞任すべきだったと考えています。
金田大臣を法務大臣にとどめさせた安倍総理の責任も極めて重いと思います。予算委員会で安倍総理がわざわざ金田大臣の席に歩み寄り答弁のアドバイスをしたり、記憶に新しい、答弁しようと挙手をしている金田大臣を安倍総理が慌てて押さえる様子や、部下である副大臣が大臣に答弁をさせなかった映像が何度も何度も繰り返し国民に示されていました。このことは、まさに安倍総理自身が金田大臣の答弁能力のなさを証明していることにほかなりません。そして、金田大臣をさらしものにし続けたのも安倍総理です。
また、衆参両法務委員会で、委員からの要求もない中で政府参考人である刑事局長の出席を包括議決として強行採決したことは甚だ遺憾であり、与党に猛省を促したいと考えます。しかし、このことも、政府・与党一体となって金田法務大臣の答弁能力と資質に問題があることを認めている証左と言えるでしょう。実は、我々よりも早く金田大臣に不信任を突き付けたのは、皮肉なことに安倍総理と与党なのではないでしょうか。
法案の内容にも触れておきたいと思います。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が超過しております。簡単に願います。
○福山哲郎君(続) 私は法律家ではありませんが、我が国で長年にわたり培われてきた近代刑法の理念と体系が崩れてしまうのではないかという懸念を強く持っています。
そのうちの一つは、明確性の原則です。刑罰法規は、どのような犯罪に対して誰がどの程度の刑罰が科せられるかが一般国民にとっても予測可能な程度に明確でなければならないということです。
第二が、犯罪と刑罰の均衡が取れなければならない適正処罰の原則。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が来ております。簡単にお願いいたします。
○福山哲郎君(続) 第三が、刑法の介入が許されるのは、他者の意思に反してその法益を侵害し、あるいは侵害の危険が発生して初めて処罰されるというものです。すなわち、既遂が原則です。
一方で、重要な犯罪については未遂を例外的に処罰することができ、その理由は、実際に被害が発生する前に時間的に遡って国家権力の介入を認め、それはもちろん生命などの利益を守るためです。さらに、殺人や強盗など極めて重大な犯罪についてのみ、その実行の着手前に予備行為を例外中の例外として処罰しています。
○議長(伊達忠一君) 福山君、簡単に願います。
○福山哲郎君(続) 時間的に予備行為の更に以前に遡る共謀は、我が国の刑法の下で二百七十七もの犯罪に適用して処罰の対象にすべきではありません。
こういった原則が極めて曖昧になり、金田大臣の答弁により混乱を来しています。警察の運用現場がより恣意的になることも否定できません。
また、本法案の一条の目的にはTOC条約を実施するためという文言が付け加えられていますが、テロ対策という文言の追加はありません。
○議長(伊達忠一君) 福山君、簡単に願います。
○福山哲郎君(続) そもそも、TOC条約は、マフィアや暴力団によるマネーロンダリングや人身売買などの犯罪を取り締まることを目的とする条約です。物質的利益を得ることを間接的に目的とするという意味で、百歩譲ってテロリスト集団がTOC条約で全く対象にならないわけではないとしても、その主たる目的が組織犯罪対策でありテロ対策でないことは、TOC条約の審議経過からも明らかです。当該条約の国連立法ガイドを編さんしたパッサス氏は、TOC条約はテロ防止を目的としたものかという質問に、明確に違うと答えています。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が来ております。簡単に願います。
○福山哲郎君(続) 我が国は、国連の十三のテロ防止関連条約を既に批准し、必要な国内法の整備を終えており、テロ対策はされています。さらに、四十五の予備罪、準備罪があり、予備罪についても共謀共同正犯が認められており、銃刀の所持が処罰されるなど、実質的に見て、未遂よりも前の段階で組織的犯罪集団の重大な犯罪を取り締まる法律は存在しており、二百七十七もの罪について計画罪を新設しなければTOC条約を締結できないことはありません。具体的な立法事実を踏まえて一つずつ個別立法で対応すれば足りると考えられます。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が過ぎております。簡単に願います。
○福山哲郎君(続) 次に、到底看過できない答弁のぶれを指摘したいと思います。(発言する者あり)ここは重要だから聞いてください。
五月八日の衆議院予算委員会で金田大臣は、テロ等準備罪は犯罪の主体を組織的犯罪集団に限定しましたと答弁しました。しかし、六月一日の法務委員会では、組織的犯罪集団の構成員ではないが組織的犯罪集団と関わりがある周辺者につきましてはテロ等準備罪で処罰されることもあり得るとして、犯罪の主体を組織的犯罪集団に限定しないという全く異なる答弁をされたのです。関わりがある周辺者では、対象が全く明確ではありません。
次が大事です。(発言する者あり)ちょっと聞いてください。
五月八日、安倍総理がテロ等準備罪は犯罪の主体を組織的犯罪集団に限定していると述べていることに対して、六月一日、刑事局長は、テロ等準備罪の主体に制限はございませんと、百八十度違った答弁をしています。このことを問うたところ、それに対する金田大臣の答えは、全体として同じことを言っているでした。どこが同じことなのでしょうか。さっぱり分かりません。こんな答弁で法案の運用ができるのでしょうか。
一般の人も対象になるのではないかという法案審議当初から懸念されていた問題について、このように、総理、大臣、局長の答弁が大きくぶれてきています。どこまで対象が広がるのか、不安は拡大するばかりです。
次も大事です。
さらに、国連のプライバシー権に関する特別報告者であるカナタッチ氏からの公開書簡に対して、安倍政権の対応は常軌を逸しています。書簡に対して、内容は明らかに不適切なもの、強く抗議を行った、何か背景があって出されるのではないかと口を極めて批判し、個人の資格で活動をしていると主張しました。国連人権理事会の理事国としての日本の信頼にも関わる問題だと思います。国際ペン会長からの反対声明、フランスのル・モンド紙も批判記事を出しています。国連特別報告者を意図的に個人的なものにしたいようですが、とんでもありません。
次も大事です。
今年の春の叙勲において、日本は国連特別報告者経験者お二人が何と叙勲の栄に浴しています。そのうちの一人は日本人で、何と当該法務省の顧問までされています。政府のカナタッチ氏の扱いが的外れであることは自明です。御都合主義もいいかげんにしてください。
カナタッチ氏は、日本政府の抗議を受けて、法案の公式英語訳を求めるとともに、自分の書簡内容が不正確な場合には公開の場で撤回するということまで言ってきています。ところが、三週間以上経過をしているにもかかわらず、外務省の答弁は、英語訳は作っておらず、追って説明するを繰り返すばかりで、時期を明らかにしません。
まずは英語訳を送り、国連代表部からカナタッチ氏に説明させることが日本政府のやるべきことなのではないでしょうか。なぜ、そんな当たり前のことができないのですか。英語訳を送れば、カナタッチ氏の指摘が正しいことが明らかになってしまう。だから、英訳も送らないし……
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が過ぎております。簡単にお願いいたします。
○福山哲郎君(続) 説明もしないというのが本音なのではないでしょうか。自信のない、できの悪い法案を、審議を打ち切って強行に採決するなんてあり得ません。
金田大臣は何度も立法事実は条約だと言われています。国連の条約を批准するために審議中の法案が、その国連からプライバシーの侵害の懸念があるから拙速に成立させないでくれと言われている。一体何なんですか、これは。
所管大臣の金田大臣の答弁を求めても、外務副大臣の答弁が政府の見解であると繰り返すばかり。自らの判断を放棄しています。本来なら、外務省を説得してでも英語訳を送って誤解を解くのがあなたの役割なのではないでしょうか。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が相当過ぎております。まとめてください。
○福山哲郎君(続) この法案は、論点が散らばり、いまだに議論が不十分な条文や内容が山積しています。採決など考えられる状況ではありません。
分かりました。もうすぐやめます。もうすぐやめます。議長の御指導に従って、少し省いて、もうすぐやめます。
例えば、これまでならハイジャックはチケット購入時点で予備罪で処罰できたのに、今回無理やり予備罪で処罰できない場合をつくってしまったので穴が空いてしまっています。自民党が主張している、水道水に毒物を混入する計画をして毒物を準備した場合であってもこの時点で処罰できないという事例は、果たして立法事実たり得るのでしょうか。この事例は、本来は殺人予備で十分処罰可能であり、国民をいたずらに不安に陥れるのはやめてください。毒物を準備して処罰できないような日本の刑法ではありません。
また、計画を実施するための実行準備行為は構成要件なのか処罰条件なのか、参考人質疑で専門家と金田大臣の答弁は真っ向から異なっています。これもどちらかはっきりさせなければいけません。(発言する者あり)あともう一枚です。
警察は、刑事訴訟法に定められている捜査以外に、調査、検討という令状によらない個人の情報を集めています。今回、計画実行準備行為が処罰対象になるということは、犯罪よりもかなり手前の時点で……
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が相当過ぎております。
○福山哲郎君(続) 尾行や口座の確認やレンタカーの使用状況などの情報を警察が入手する可能性は否定できません。(発言する者あり)次、大事なので聞いてください。もうやめますから。
共謀罪は、プライバシー権の侵害が萎縮をもたらすものです。包括的な共謀の処罰は、包括的なプライバシー情報の収集、管理なくして実現しません。計画段階で嫌疑を掛けるには、嫌疑の嫌疑を掛けるために、調査、検討と称して国家の目と耳を広範に社会の中に溶け込ませる必要が出てまいります。プライバシーという権利は、実際に監視しているか否か以前の問題として、監視されているかもしれないという感覚を持たせることで人々が萎縮し、我々の自由が侵害されるのです。
その対象犯罪が二百七十七もの犯罪に広がっていることに、国民の監視社会への不安も広がっています。なぜ与党の諸君は、民主主義の基盤である法的安定性と法秩序を壊すことにこんなに鈍感で謙虚さがないのでしょうか。立法府の一員として、矜持は一体どこに行ってしまったのでしょうか。
まだまだ議論が必要であることは言うまでもありません。数の力があるということと正義は同義ではありません。
○議長(伊達忠一君) 福山君、時間が相当過ぎておりますので、まとめてください。
○福山哲郎君(続) 金田大臣の問責決議案に対して議員各位に御賛同いただき、新たな大臣の下で共謀罪法案を一旦廃案にしていただくことが最良の道であることを申し上げ、冒頭申し上げました中間報告、つまり審議打切り、強行採決をこの本会議で絶対にやってはいけません。議会の自殺行為です。今からでも間に合います。与党の諸君に自制を求めて、私の討論を終わります。(拍手)


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